さあ、どうぞ、何もありませんが。 ~普通の暮らしのおもてなし-お茶と漬けもの-~

2019年04月06日

天心庵守

何を思ってか、突然、ぬか漬けを作り始めました。

子供の頃は、毎朝、母がぬか床をひっくり返して、色鮮やかに漬かった茄子、胡瓜、人参、大根をいただきながら、朝茶と共にたわいのない話が弾んだものです。

母が不在のときは、必ずといってぬか床をかき混ぜるようにと頼まれて、鼻をつまみながら渋々かき混ぜたのを憶えています。 

そのぬか床は、母が病で倒れた10年ほど前までは実家の味の一つとして大切にされてきました。

30年以上もたったぬか床はすっかり塩がかれて元気な乳酸菌も育ち、絶妙なぬか漬けができあがります。 

母にとっては、長い間、四季折々、時季の温度にあわせながら手塩にかけた"芸術作品"のようなものです。 

私の息子たちも、実家にいくと「おばあちゃまのお漬物が食べたい」といってよくせがみ、丸ごと一本の胡瓜を美味しそうにほおばっていました。

ふる漬けになって酸味がついたときは、薄く切って少し塩出しして鰹節をかければ、あとは温かい炊きたての白米があればそれで十分なご馳走でした。

あの味が今でも忘れられません。

ぬか床は、日々、丁寧に愛情をかけてあげなければ、白くカビが生え臭くなってしまいます。 

それなのに、母が手を入れることができなくなったぬか床を、娘の私は終いにはだめにして無情にも捨ててしまいました。 

その時は、母の看病で必死だったので、30年という時間のことなど頭をよぎることもありませんでした。


あれから10年、昨今、健康志向が高まり"発酵ブーム"が到来しました。

健康食品コーナーでも若い人たちを多く見かけます。米ぬかは、美容効果でも注目されているようです。

母のぬか床をだめにしてから、ぬか床をもつことも、ぬか漬けを食べることもなくなりました。 

ところが、先日、スーパーの漬物コーナーで"毎日かき混ぜなくてもいい発酵ぬか床"というなんとも上手なコピーで売られたすぐ使えるパックを見つけたのです。

仕事で家をあけることが多い生活なので毎日のお世話は無理、と思いきや、便利になった今のぬか床は「冷蔵庫で保管すればかき混ぜなくても一週間OK!」 とあります。

何を思ったのかうまく言葉にできないのですが、母の大切なぬか床を捨ててしまったこと、30年という長い"時間"をとがめもなく捨ててしまったこと、大げさですがそんな罪の意識が潜在的にあったのかもしれません。 

迷いもなく、パックに入ったぬか床を購入し、足早に家にもどり、茄子、胡瓜、蕪(かぶ)そして人参を早速一晩漬けてみました。 

最初のぬか床ですから、まだ塩が強いのは仕方ありません。

それからは、毎日かけ混ぜなくてもいいのに、つかり具合がとても楽しみで冷蔵庫から取り出しては手をいれています。

多少強かった塩も、唐辛子や山椒、昆布、からしぬかを足して数回野菜を漬けていくうちにまろやかになってきました。 

先日、私のぬか漬けを母に食べてもらったら、「まだ塩がかれていないね。。。」と、ほくそ笑んでいました。

こうして私の発酵生活が2週目を迎えます。

私の朝は、子供の頃から変わらず、お煎茶一杯で始まります。

寝起きのお茶は、五臓六腑 (ごぞうろっぷ)に染みわたります。

そして、もう一品、新米のぬか床が作ったお漬物でビタミン野菜が加わりました。


今ではご来客にお茶うけとして漬物がでることは少ないでしょうけれど、私が小さい頃は、我が家でも、そしてお茶の間のテレビでもそんな風景がたくさんあったと思います。


日本茶とお漬物・・・

四季の和菓子もそれはそれで、とても美しくおいしいものですが、

お漬物も、ぬか床の手入れを思えば、りっぱな手厚いおもてなしと思えるようになりました。


今度、息子たちが我が家に来る頃には、私のぬか床も今より少しは発酵が進み味もそれなりに落ち着いてくれると思います。 

母のぬか床の味には到底かないませんが、"おふくろの味"の一つして楽しんでくれたらと思っています。

ただし、愛情を込めて、丁寧に、ゆるやかな時間をかけてあげればの話ですが。。。。


そして、息子たちが大好きなお急須で入れた煎茶と共に。

いつまでもゆるやかな時間が過ごせますように。


一期一会


天心庵守


P.S.

もうすぐ新茶が味わえますね。今年のできはどうなのでしょう。楽しみです。